サルバドールの朝サルバドールの朝
(2008/03/26)
レオノール・ワトリング、ダニエル・ブリュール 他

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監督:マヌエル・ウエルガ
原作:フランセスク・エスクリバノ
脚本:ユイス・アルカラーソ
撮影:ダビ・オメデス
音楽:ルイス・リャック

出演:ダニエル・ブリュール    
    トリスタン・ウヨア    
    レオナルド・スバラグリア
    ホエル・ホアン
    セルソ・ブガーリョ
    メルセデス・サンピエトロ サル
    イングリッド・ルビオ
    レオノール・ワトリング

1973年〜74年、フランコ独裁政権末期のスペインを舞台に、不当な裁判で死刑に処された青年サルバトーレ・ブッチ・アンティックの最期の日々を実話を元に描いた作品。


前半、ブッチは現体制に対する若者らしい反骨精神から アナーキスト集団の活動に身を投じ、資金集めの為に仲間たちと銀行強盗を繰り返す。
そこには 政治的思想を背景にしながらも 青春そのものの様々な活力がキラキラと輝いて見えて眩しいくらいです。
しかし、ブッチが逮捕され死刑に至るまでを描いた後半は その死刑を阻止しようとする大勢の仲間や家族たちの中で 正義や死刑云々など語るのも虚しいほど彼の孤独が胸に突き刺さり、ひたすら重苦しい展開が続きます・・。  サルバドール・ブッチ・アンティックが処刑されたのは1974年3月2日、彼がまだ25歳の時でした。

アナーキスト集団に参加した頃のブッチは、反体制活動という名目で資金集めの為に様々な銀行強盗に手を染めていますが 当初はそれら略奪がスムーズに経過していた為、何だかブッチを含め、彼ら全体を覆う空気感も大らかで お気楽にすら感じてしまえる描写が続きます。

強奪したお金でスーツに身を包み、更に次の銀行強盗を繰り返す。

その際、その行為に対する大義名分を読み上げる仲間も 読み間違って噴出す始末、若さだなぁ〜と微笑ましさを感じてしまったりして・・。

強奪される銀行側のスタッフもポカーンとして表情で いったいこの独裁政権下での 彼らアナーキスト集団はどんな存在だったのか、一般の庶民はそんな彼らをどう見ていたのでしょうか?

ブッチは兄姉妹も多く、強奪した資金を家族にコッソリ分け与えたりしているあたりも アナーキストとしての建て前や緊張感はどこに?と感じてしまう程です。

しかし、それら前半の描写が後半になって生きてくる・・というか、ブッチの逮捕前と後の空気の違いや落差に戸惑うのは やはりこれら前半があってのことだったのだと気付かされたのです。

1939年以降、フランコの独裁政権が続く中、ブッチが逮捕された70年代は 長年のファシズムから脱却し、国際社会にも参加し、スペインが急激に経済成長を遂げた時期と言われています。

そんな中、ブッチの死刑執行は 本当に死刑に値する罪を彼が犯した上でのものだったのかどうか、独裁政権下での弾圧に等しい愚行では無かったのか、究極のラストに近付くにつれ、憤りと虚しさが込み上げて来ます。

その立場に置かれたブッチの気持ちを理解出きるはずも無いもどかしさはあっても、恐怖だけは漠然と理解出来るような錯覚を覚えるリアルな展開が続きます。

その場にあっても尚、他人を思いやる彼の人間性に触れ、ますます頭が混乱し、息苦しくもなる。

親しくなた看守ヘススとの交流の中で 彼の失読症の子供を気遣うブッチ、そしてアドバイスをするブッチ。

また末の妹を可愛がり、自分を心配する彼女を優しくなだめるブッチ。

確かに、ブッチが気の毒・・だけでは済まされない彼の犯した罪は歴然としてあります。

強盗を計り、逮捕を逃れる為に揉み合いになり 警官を射殺してしまったという事実。

ただし、正確な警官殺しの検証は明らかにされず、ブッチ一人が責任を負い、死刑の判決を下されたというのも やはり独裁政権下での偏向あっての判決と誰しもが認めざるを得ないものです。

彼の死刑を覆そうと必死になる弁護士や仲間たちの活動も 観ていて痛々しいくらいに虚しさの中で空回りしているように見えます。

またブッチの家族の励ましの中で、特にブッチ同様、過去に反政府活動で逮捕され 死刑寸前に恩赦を受けた父親は 頑なに自分の殻に閉じこもり、ブッチへの思いも言葉も発しない、ただブッチからの素直な心情を綴った手紙を心密かに深く受け止めている様子が切なくて仕方ない。

そんな彼の姿もまた、父親としての苦渋が滲み出て胸が詰まる。

それら大勢の人々との交流も、死を目前にしたブッチが皆に与えた影響は あるいは私たち観客に与えられたものとして受け止めるべきものでもあるような気がしています。

そして万策尽きて、ついにその時がやって来ます。

今から 僅か30年そこそこ前の死刑です。

死刑における処刑方法に どれが良い悪いなど考えるべきでは無いかもしれませんが それにてしても余りに酷い、酷過ぎる方法です。

この作品では そんな処刑とブッチがこと切れる瞬間までを 決して目を逸らさずに最期まで描き続けています。

処刑に立ち会う様々な立場の人々。

最期に処刑人が「さっさとやってしまおう」と、手馴れた様子で処刑を実行するに至っては、その感覚の麻痺とも言うべきおぞましさに 胸が悪くなる始末です。

最近、『死刑』について 様々なところで様々な意見を耳にすることがありますが 私にとっては 考えても考えても結論の出ないものであり、考える知識も判断基準も持たない自分に ヘンな言い方だけれどほっとしています。

ただ言える事は ブッチのように冤罪ではない!とは言い切れないものがある限り、そこには測りしれない絶望と悲しみが存在すること。

そしてそれを人間が判断することのあやふやさに恐怖を禁じえないという気持ちです。

ラストシーンに流れるテロップに ブッチが亡くなって30年以上もの時が流れましたが ブッチのご家族は未だに裁判で戦っていらっしゃるそうです。

ブッチの死を悼み、皆が赤いバラを手に抗議するシーンと そのバラが雨に濡れた地面に散らばっているラストシーンが印象的です。


思えば、自分の年令とサルバドールの年令はさほど変わらないかもしれません。
彼が処刑された日、私も遠く日本で同じ一日を平和に過ごして居たのだということが信じられません。
本当に日本は平和です、そしてこの平和は守り続けなければいけないものなのだと思います。


主演のダニエル・ブリュールはスペインの出身だったのですね。
ネイティブなスペイン語はさすがです。
他にスペイン映画でお馴染みのトリスタン・ウヨアやレオノール・ワトリング、そして看守ヘススを私のレオ様こと(笑)、レオナルド・スパラグリアが演じていました。 

同じく、ダニエル君の「ベルリン・僕らの革命」や、「白バラの祈り ゾフィー・ショル、最期の日々」、古くは「デッド・マン・ウォーキング」や「ダンサー・イン・ザ・ダーク」など同様、かなり余韻の重苦しい作品ですが、思うところは深く、そしてずーっと心に残る作品です。

テーマ : 映画感想 - ジャンル : 映画

 

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